この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 この思いは、浅ましいのだろうか。
 膝の上の手を握り締める。ローデリヒ様は敢えて、お母さんを嘲る物言いをしたのか。でも、その言葉には一つだけ確かに伝わって来るものがあった。

 きっと、ローデリヒ様はお母さんに愛されていたんだと。


「……もし、私もローデリヒ様のお母様と同じ事をしたら、どうしますか?」


 私の質問に、ローデリヒ様は虚をつかれたように目を見開いた。そして、考え込むように目を伏せる。しばしの間の静寂がその場を支配した。アーベルを可愛がっていたローデリヒ様なら、私とほんの少しでも気持ちを共有出来るはずだ。でも、ローデリヒ様から何の感情も伝わってこない。必要な時に役に立たないなあ、私の能力って。

 やがて、ソファーの肘掛けにローデリヒ様は頬杖をつき、物憂げな表情でポツリと零した。


「……最適解など、ないのかもしれないな」


 しんみりとした空気が私達を包む。けど、思い出したようにハッとしたローデリヒ様が、その空気をぶち壊した。


「そういえば、私ははやく帰ってくれと頼んだはずなのだが」

「うっ」
< 425 / 654 >

この作品をシェア

pagetop