この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
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 幼い頃、手のひらから血をよく流していた。

 父親が剣の天才だったから、自分も才能があると信じて。立派な父親に少しで追い付けるように、近付けるように。純粋に憧れていたのだった。

 柔らかかった手は模擬剣を握る度、幾度も隆起し、血を流し、やがて段々と硬くなっていく。

 努力はローデリヒを裏切らなかった。
 しかし、ローデリヒを凡人の枠から出すこともしなかった。

 悔しくて悔しくて、自分に才能が無いことを突きつけられても、ローデリヒはグッと歯を食いしばって耐えてきた。

 一般国民としてなら天才だっただろう。
 だが、直系王族としては、特筆するような部分はなかったのである。

 勉強だってしがみついた。
 例え天才でなくとも、やればやる程秀才へと変えてくれるから。

 やれる事はなんでもやった。自分が伸ばせる事は、とことん伸ばした。
 だって、全てはローデリヒの母親の評価となるから。
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