先生の全部、俺で埋めてあげる。


「夕惺くん?」




突然俺を呼ぶ声が聞こえた。


あんまり人の顔を見なかったから気づかなかった。




「海香…?」


「やっぱり夕惺くんじゃん!久しぶり」


海香と会うのはあの夏祭り以来だ。


その顔を見ると、急に気持ちが重たくなった。




「そうだな」


俺は出来るだけそっけなく返事をする。


「連絡しても全然返事ないんだもん」


「ごめん」


海香を見るとあの時の辛かった気持ちが一瞬にして蘇ってくる。


そして、あの時から一歩も進んでない自分に、心底腹が立つ。




俺が気まずそうにしていると、

「また何かあった?」

って夏祭りの時みたいに心配そうに俺の顔を除く海香。


「大丈夫だよ。クレープよかったら食べてって」


そう言って海香の前から立ち去るように、行きかう人にチラシを配った。


気が付くと海香はいなくなっていて。


ホッとした。



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