先生の全部、俺で埋めてあげる。



「夕惺くんって好きな人いるの?」


隣に座っている海香は緊張した面持ちで口を開いた。




「いたけど失恋した」


自分の気持ちすら言えないまま。




「だから寂しそうにしてたの?」


「そんなことないよ」




「でも、瞳の奥が泣いてる」


俺の目をじっと見つめて海香は言う。




この子は鋭い子。




「私でよかったら慰めてあげよっか」


先生に似ているその子は、先生に似た優しさで、俺の中に入ってくる。




そんな目で見ないで。




感情が抑えられなくなる。



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