桝田くんは痛みを知らない
【俺、イタミ感じねえんだ】
「そういう。めんどーな、人間なんだ」
桝田くんは、わたしに、打ち明けた。
体育の授業に出られない理由を。
桝田くんの身体の、こと。
「痛みがないし。汗を、かけない」
それは、信じられない話だった。
「だから、体温が異常に上昇しやすい。ガキの頃、何度かプールの授業は受けたことあるけど。カラダの温度を下げすぎないよう注意が必要だった」
けれど、わたしが知らないだけで。
それが、桝田くんにとっての――“日常”。
「骨が折れても。わからない」
痛みを感じないということは
「死にかけてても。気づけない」
強さじゃ、なかった。
「注射で泣かない俺を、医者は褒めた。だけど俺は。単純に、注射のなにが怖いかを理解することができなかっただけ」
桝田くんは、痛みを知らない。