桝田くんは痛みを知らない
「自分でも覚えてねえ頃に。目をかきすぎて。失明しかけたらしい」

「……少しも。感じないの?」

「そうだな」


 なんて言葉をかけていいか、わからない。


 “大丈夫”?

 …………ちがう。


 桝田くんは、そんな言葉、かけられたいわけじゃないだろう。


 それじゃ桝田くんは、安心してくれないだろう。


「増え続けるピアスは。ある意味、自傷行為なのかもしれない。どこに穴をあけても何も感じないもんだから。平気であけられて。本来ならどんな感覚だっていう、正解を。身を持って、知ることができない」


 午後の授業が始まるチャイムが校舎に鳴り響く。


「戻る?」


 桝田くんの問いかけに、わたしは、頭を横に振った。

 教室に行かなきゃいけないけど。


 でも。


「聞かせて」
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