桝田くんは痛みを知らない
 全然ピンとこない。


 いても、スズメバチ…………とか。

 くらいだな。思い浮かぶの。


「そうですか」

「君はわかるでしょ。僕の敵」

「えー……。ちょっと想像できませんね。先輩ほど完璧で、安泰って言葉が似合う人。見たことないですよ?」


 えみるの声のトーンが、下がる。

 それでもマサオミくんは穏やかに続けた。


「それ、褒めてるの? それとも。皮肉かな」

「まさか、皮肉だなんて。あたし、先輩は幸せを掴める人だって思ってます」

「そうだよ。僕は、掴めるはずだった。掴むはずだった。……余計なことをされなければ」


 ――――?


「あたし、感じるんです。運命は、変わるものだと」

「……変わるもの?」

「はい。勇気を出して変えていけるものなんだと、そう思いますよ」
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