芦名くんの隠しごと



きっと、前を向いてる芦名くんからはわたしの表情だってわからないし、こんな気持ちなんてわかるわけない。


「じゃあ、走るから。ちゃんと掴まっててね」


「うん……」


本当なら、嬉しいはずなのに。
芦名くんのそばにいられるだけで、幸せなはずなのに。

……どこか、物足りなく感じてしまう。


「……野乃、もしかしてなんか元気ない?」


「えっ………と、な、なんで?」


「珍しく、野乃が甘えたがりになってるから」


甘えたがり、って…?

そう思って首をかしげていると、クククッと笑い声が聞こえて。


……あ、また新しい芦名くんだ、

そう思っているうちに、穏やかな声が降ってくる。


「背中掴む力、いつもより強い」


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