愛染堂市
暑さでボケちまったのか、血が上ってそれ所じゃ無かったのか、女はガキを叱りつけた時から今に至るまで日本語しか話してない事に気付いてないようだ。
『アンタ気付いてないみたいだが、さっきから日本語しか話してないぜ。俺は日本語を話すアンタに合わせただけだ。・・日本語の上手いだけの中国人かも知れねえんじゃねえのか?』
俺がそうイヤミに言うと、女は口を片手で抑えて「あっ」と気恥ずかしそうに言った。
『――取り敢えず、俺はコレが戻ってくれば文句は無えよ。ガキに盗みさせてるようなアンタにコレ以上何言っても仕方ないだろうしな・・・じゃあなクソガキ』
俺がそう言ってガキの頭を撫で、その場を離れようとすると、女が「待ちなさいよ!!」と言って俺の腕を掴んだ。
『ったく何だよ?』
「アタシはこの子達に盗みなんかさせないわよ!!」
『・・んな事言っても、現に俺のタバコをパクってるじゃねえかよ』
女が顔を真っ赤にしながら「それはそうなんだけど・・」と言い、「・・でも」と言葉を付け足そうとした瞬間、大通りの方からパラパラと乾いた音が響いた。
『――くそっ!!何だよ?!』
「・・・はじまった」