私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

「問題なのは永住権が無くなった事ではない。王の機嫌を損ね、王の根底に不信感を抱かせてしまったことだ」
「不信感?」
 訊きかえしたのはゆりだった。間空は軽く瞳を閉じて頷いた。

「ああ。そこを、或屡に利用されたのだ」
「或屡って、サキョウの領主ですよね?」
 そう尋ねたのは留火だ。

 ゆりは、どこかで聞いた名だと頭を捻る。一方で雪村は泣き出しそうな心を抑えて、話を洩らさずに聞こうとしていた。

「そうだ。彼は昔から自身が返り咲く日を虎視眈々と狙っていてな。この話を知った或屡はその日から我らを潰しにかかってきていたのだよ」
「どうしてですか?」
 怪訝に尋ねたゆりを、間空は一瞥した。

「我らの不正をでっち上げるか、そう見える証拠を揃えて、手柄を得、王に気に入られ、引き立ててもらおうという作戦だろう」
 間空は腕を組んで、一つ息を吐く。

「我らもそれを知って、作戦を立てた。一つは、或屡より先に或屡の不正を集め、その立場から引き摺り下ろす事。王は不軌を嫌うからな。もう一つは、それが間に合わなかった場合、魔竜を目覚めさせ、我らが国を創ろうというものだ。もし先手を打たれれば、あの王の事だ。我らは国を追われるだけでは済まないかも知れないからな」

「でも、風間様が拉致されてしまったと言う事は――」
 留火はその先を言う事が憚られて、口をつぐんだ。

「その通りだ。どうやら或屡に先手を取られたらしい。風間をどうやって拉致したのかは知らないが、我らより先に王を動かすだけの何かを手に入れた事だけは明白だ。そうでなければ、此度の進軍はありえんからな」

「でもさ、本当に王の命令で進軍したって事はないのか?」
 遠慮がちに反論した雪村を、間空は深刻な表情で見返した。
「そうであるなら、良いのだがな……」
 言葉を濁した間空を、皆が一様に神妙な面持ちで見返した。

「だが、あと一月で或屡を蹴落とす計画を実行に移そうとしていた矢先に、私に何も告げずに行くというのが、如何せん納得がいかない。やはり、それは不自然なのだ。或屡に、もしくは王によって監禁されていると見た方が、私には自然で納得が行く。もしも本当にそうであった場合、この進軍は早々に撤退するだろう。そして、その時」

 間空はいったん言葉を区切った。悲痛に眉を歪ませる。

「――おそらく、風間は処刑される」




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