私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 それと同時に、間空よりも一足速く、手の平に乗るくらいの歪な石が地面へ落ちた。その途端、何故か雷が落ちたような轟音が耳を突き、歪な石を中心として床が割れた。

 退却していなかった兵士達は、床を裂いた振動で転んだり、地割れに嵌まり込んだりして呻く。

 ゆりは混乱して、落ちた石と天井を仰いだ。それと同時に間空が中央に降り立つ。石は歪な形でセピア色が交じっている。天井はちょうど、町を一望できる部屋と同じ面積分無くなっている。

 あの部屋から、二階をキレイにぶち抜いて来たようだった。だが、不思議な事に上から降って来たのはあの石と間空のみだ。まるで、部屋も部屋にあった全ての物が消失してしまったようだ。

「今のって……?」
 愕然として独りごちたゆりの言葉を、ナガが拾った。

「見た通りさ。あの落ちて来た石みたいなのは、三階のあの部屋と、その真下にあった二階の部屋そのものだよ」

 気だるそうに言って、もじゃもじゃの髪の毛を軽く掻く。無精ひげを擦って、度肝を抜かれているゆりを一瞥した。

「言っとくが、全員があんなこと出来るわけじゃぁないからな」
「当たり前だ。オヤジ殿は、あたし達の長だったのだからな!」
 ゆりの代わりに口を出した知衣は、誇らしげに腕を組む。
「じゃあ、あの、今のって結界なんですか!?」

 やっとナガの言葉の意味を悟って、ゆりは撥ね出されたようにナガを振り返る。
 ナガはゆっくりと頷いた。

「今のは、結界を張った場所を全て収縮、圧縮したのさ」
「……そんな事が」

 絶句したゆりに、ナガは片方の頬を持ち上げて、にっと微笑んだ。
 すごいだろ? と、自慢しているようで、ゆりは感心を込めて微苦笑を送る。笑んだつもりだったが、頬が硬くなってしまっていたのだ。

 間空は這い出してきた兵士達を見据えた。
 兵士達は、驚悸した表情で間空を食い入るように見つめる。

「シジャク三関はどうした!?」
 恐怖を堪えるように叫んだ一人の兵士に、間空は目線を移した。

「安心しなさい。彼らは結界で別の場所へ跳ばした。もちろん、生きているよ」
「そんな事も出来るんだね」

 突然、明朗な声音が兵士達の後方から飛んで来て、一人の少女が開け放たれたままの玄関から入って来た。長い髪を、ツインテールで結んだその少女に並ぶように、片目を髪で隠した男が並んだ。

「しかし、まさかこっちに居るとは……」
 少女は呟いて、軽くお辞儀をしてみせる。
「初めまして。咲鬼(さき)と申します。こっちは、ジュダン。さすが、厄歩の元長だ。戦えるなんて光栄です」
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