何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「ただいま!」
村長さんに言われた事を考えながら、天音は家路に着いた。
手には、いつものヤンおばさんの牛乳を抱え、天音は家の扉を開けた。
「おかえり。」
そして、いつものように、じいちゃんが優しく笑いかけて迎えてくれた。じいちゃんは、やっぱりベッドにはいなくて、起き上がってお昼ご飯を作っていたようだ。
「…。」
そんなじいちゃんを見つめ、天音はまた考え込んだ。
さっきの事をじいちゃんに言うべきか、それとも言わずに何もなかった事にしてしまおうか…。
天音の頭の中では、そんな考えが行ったり来たりを繰り返している。
「どうかしたか?」
そんな深刻な天音の様子に、じいちゃんはすぐに気がつき、天音に問いかけた。
そして、天音は意を決して、じいちゃんに尋ねてみる事にした。
「じいちゃんは、この畑いつまで続けるの?そろそろ楽したくないの?」
天音はじいちゃんから、これからの事について本音を聞き出そうとした。
じいちゃんが望んでいる事は一体何なのか…。
そんな改まった話をした事など、今まで一度もない。天音は、今まで当たり前のように、じいちゃんに育ててもらってきていただけだ。
しかし、天音ももう17歳。これからは、ただ何かしてもらうだけでなく、じいちゃんのために、何かをしたいと考え始めていた。
「わしが死んだら、この土地は売っとくれ。」
「え…?」
じいちゃんからは、思いがけない言葉が返ってきて、天音は大きく目を見開いた。
それは天音の予期したものとは、全く違った答えだった…。
「すまんの。本当は村の外に出て、もっとお前にも遊んでもらいたいんだが…。」
じいちゃんが申し訳なさそうに目を伏せた。
…どうして……?