何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「いやでも、この村で育った天音ちゃんが…。」
しかし、やっぱりそんなのは夢物語。
こんな村育ちの普通の少女が、この国を治める皇帝の妃になるなんて…。
常識ある者なら、やっぱり無理だと考えるのが普通だ。
「ちょっと、みんな!私だって、ほら化粧とかすれば…。」
しかし、彼女は決して諦めようとはしなかった。
何故だろう…。そんなにも必死になって、みんなに認めさせたかったのは…。
「天音。確かにお前には、たくさんの魅力がある。」
その騒ぎの中、一人の冷静な老人の声が、天音の耳に届いた。
「村長さん?」
この騒ぎを聞きつけたのか、そこに現れたのは、この村の村長だった。
「天音。話は聞いておったが、まさか、じいさんを一人この村に置いて行くのかい?」
流石は村長。冷静にその問題点を、天音に指摘した。
そう、妃になるのならば、しばらく城に住まなければならない。つまり、昨日腰を悪くしたばかりのじいちゃんを、一人この村に残して行かなければならないわけだ。
「…。」
痛いところを突かれた。
それが天音の、今の正直な気持ちだ。
それは唯一、天音もひっかかっていた問題…。
やはり、体調面が不安なじいちゃんを一人置いて行く事は、天音も心配でならない。
「私もあいつとは同い年だ。」
村長が寂しげにポツリとつぶやいた。
村長とじいちゃんは、同い年で、古くからの友人らしい。
やはり、村長もじいちゃんの事は、気がかりでならないのだろう。
「そこをよく考えるんだ。」
村長が少し厳しい口調で、天音に語りかける。
「はい…。」
天音は村長の言葉に、素直に頷いた。
やはりこの事は、軽はずみな気持ちで決める事ではない。よく考えて決めなければいけない。
天音は、村長の一言でそう思い直し、考えなしに妃になると言ってしまった事を反省した。
「それに…。」
そんな考え込むように下を向いた天音に、村長が再び語りかけた。
「え?」
天音は村長に声をかけられ、少し顔を上げた。
そして、きっとまた大事な事を言われるじゃないかと、少し身構えながら…。
「こうやって募集するくらいだ。そうとうのブサイクかもしれんぞ?」
……。
村長は、みなが唖然とする言葉を口にし、またもやその場に、沈黙が訪れた。
天音や、そこにいる村人達は、苦笑いを浮かべるしかない。
「ほっほっほ。とにかくよく考えなさい。」
そしてまた、村長が柔らかく笑った。
「ははは。」
そして天音も、少しひきつった笑みを浮かべていた。