何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
京司はまたあの池に来て、岩場にこしかけ、ユラユラよ揺れる水面をぼーっと眺めていた。
やはりこの場所は、落ち着く。静かで人もほとんど通らない。
そして

「あ、京司!」

天音も、また自然とここへと足が向いていた。天音もまた、この場所が一人になるにはうってつけの場所だとふんでいた。
しかし、今日は先約がそこにはあり、それは嬉しい誤算だった。

「天音。残ったんだな。」
「え…?知ってたんだ。妃候補が減らされたの。」

もちろん京司にも、その試験が行われた事は、報告されていた。
しかし、彼は何となくわかっていた。天音はきっと残るだろうと。こんな所で落とされるような人物ではない事を。

「ああ。」
「また、鯉のえさやり?」
「天音…。」

京司は真剣な表情で、天音を見つめる。

「ん?」
「いや…。ただ、誰かと話がしたかった。」

京司は本当に言いたい言葉を飲み込み、小さくそうつぶやいた。

「?変なのー。」
「え?」
「周りににいないの?話する人。」

天音は、京司がどこの誰かを知らない。
彼の周りにいる人の事も、彼の孤独な気持ちも…。
本当は知らない事ばかり…。

「ああ…。俺はいつでも一人。でも一人が楽だからな…。」

それは、京司にとって都合の良い事だった。
この城の煩わしい人間関係には、もう飽き飽きしていた。
どうせなら、いっそ一人で居た方が、気が楽なのだ。
いつしかそう思うようになっていた。
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