何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「…ねえ京司。私と組まない?」
もう一度彼の名を呼んで、かずさが不敵に笑った。
天使教ではないその呼び名を呼んで…。
「は?」
さっきよりも大きな声で、その一言を吐いて、京司は眉のしわをさらに増やした。
「奇跡の石、手に入れたいんでしょ?私達で協力して、石を手に入れましょう。」
「…。」
天使教の顔を知っている女。
京司という名を知っている女。
奇跡の石を知っている女。
不審な点を挙げたらきりがない。
この女が一体何者なのか、京司には見当もつかない。
ただわかるのは、簡単に頷いてはいけないという事。
彼の中の何かが、警告音を鳴らしていた。
「だから、お前は何者なんだよ。」
「使教徒(しきょうと)…。」
「え…。」
かずさがその言葉を、いとも簡単に口に出してみせた。
【使教徒】どこかで聞いた事のある響きのように思ったが、京司はその言葉の意味を知らない。
「…しきょうと?そんな怪しい名前の奴を信じれって?」
京司は、自分の中に鳴る警告音を信じ、そう言い放った。
この女と手を組む?こんな、どこの誰かもわからないような女に丸め込まれるほど、彼は馬鹿じゃない。
「そうよね。だって、あなたは天師教だものね。」
「は?」
「じゃあ、また…。」
意味のわからない言葉で納得したかずさは、なんともあっけなく、走り去って行った。
一体何がしたいのか、まったくその真意がつかめない。
京司はこんな人間に会ったのは初めてだ。
「…使教徒…?何者だよ。」
京司はその響きが、今も耳に残ったまま、その池を後にした。