何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「あなたは、奇跡の石があれば本当にこの世が変わると思う?」
「は?」

京司は天音の帰った後もこの池に残って、ぼんやりと過ごしていた。
この場所がそうとう気にいった京司は、いっそここに寝泊まりできたら、とそんなバカな事まで考えていた。
そんな時背後から、あの時と同じ、どこか冷めたような冷たい女の声が京司の耳に届いた。

「そんなに石が欲しいの?京司?」
「お前…。」

京司が振り向くと、そこにいたのは、以前もこの場所で話しかけられた女だった。
京司が鋭い目つきでその女に睨みをきかして、警戒心を露わにした。
なぜなら、この女は確かに京司の名前を呼んだ。
その名前を知るものなど、今はこの城にはいるはずがないのに。

「あ、私の名前はかずさ。前も言ったけど、私は怪しい者じゃない。以後お見知りおきを。天使教様。」

かずさはそう言って、わざとらしく深々と丁寧にお辞儀をしてみせた。

「へー。俺はあんたの事知らないけど。」
「おかしいわね。私はこの城のどこへ行っても、顔パスなんだけど。」

京司は、怪しげな雰囲気をまとう彼女に、そう言って吹っかけてみたが、彼女はやはり、一切動揺するそぶりなどは見せない。

「私が何者か知りたい?天使教様は好奇心旺盛なのね。もっと危機感持った方が、いいんじゃない?」

今度はかずさが、京司を挑発するような言葉を口にし、口端を少し上げた。

「は?」
「ま、その強気な性格が、命取りにならないようにした方がいいんじゃない?」

京司は明らかに不快な顔で、眉をひそめた。
しかし、かずさはまったく臆する事なく、京司に向かってそんな失礼な事をずかずかと言ってくる。
それはまるで、京司の反応を楽しんでいるようだ。
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