何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「オイ。」

リーダーは歩を進め、天音達よりも少し離れた場所からその様子を見ていたその男に、何の躊躇もなく声をかけた。

「私に何か…?」

辰はただ傍観していただけだったが、やはりその兵士の格好は目立ちすぎたのか…。と思ったが、どうやらリーダが彼に声をかけたのは、違う理由のようだった。

「あんた。一番隊長だろう。」

リーダーはぼそぼそと辰にだけ聞こえる声で、小さく耳打ちする。

「反乱軍一番隊長。ジャンヌの右腕…。」
「なぜそれを…?」

それは、以前の辰が兵士になる前の肩書き。
リーダーはその男の事をよく知っていた。そして、今目の前に立つその人物こそ彼である事に、とっくに気がついていた。
そう、忘れるはずなどない。
辰はリーダーの憧れだった人物なのだから。

「あんたが、なぜそんな格好をしてるのか…。今は聞かないでおくよ。」

リーダーは、きっとそれには何か訳があるのだろうと察して、それ以上は何も聞こうとはしなかった。

「にしても、あの子。」
「受け継がれていく…。」

辰は天音の背中を見つめ、その言葉をそっとつぶやいた。

「やられたな。俺はまだまだ未熟だったってわけか。」
「…そういう事だな。」
「しかし、あの坊主も面白い奴だな!度胸はあるようだし。」

リーダーは、自分の落ち度をしっかりと理解していた。
そしてまた、リーダーは自分に臆する事なく、歯向かってきた京司の事も気に入ったようだ。

「ああいう奴がこっち側にいたら、変わるのかもな…。」

リーダーは、京司の度胸を買っていた。
そして、彼のような人物を反乱軍にも欲しい、とまで考え始めていた。
しかし…

「彼は無理だ。」

辰はそれを阻止せざるを得ない。

「ん?」
「そんな事になったら、本当にこの国は終わるかもな…。」

辰がそっとそれを口にした。
しかし、わかっていた。それはありえない。
それは、まるで夢物語のような話。

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