何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「ただいまー!」
青が月斗と別れてしばらくして、天音が青のもとへ帰って来た。
村育ちの天音は、夜の闇をものともせず、林の方に入って行き、少しばかりそこで休息していたようだ。
そんな天音は、そこに月斗がいた事には全く気がつく様子はなかった。
「おかえり。」
青は天音の声を聞き、安堵の表情を見せ、何もなかったかのように、いつも通り笑いかけた。
「お姉さんとお話しできた?」
「うん。そろそろ帰ろうか。」
そう言って、青がその場を離れようと、一歩足を前に踏み出した。
「お姉さん、よかったですね。」
その時、天音がもう一度お墓に向かって振り返り、ニッコリ笑ってそうつぶやいた。
「天音…ありがとう…。」
青の声が風の音に混ざり合い、天音の耳に心地よく響いた。
「青…。」
(青のお姉さんは幸せだ…。
こんな素敵な場所で眠っていられる。)
そして
青がいる。そう、会いに来てくれる人がいる。
…人は死んだら悲しむ人がいる…。
でも、生きている人の記憶の中で生きていける。
いつまでも…。