何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
――――― 次の日
「天音…。」
「え?」
授業後、天音は今日も町に行こうとして、城を出た。そんな天音を呼び止めたのは、町を巡回していた兵士の辰だった。
町に異常がないかどうか巡回する事も、この城の兵士の仕事であった。
「君に…。」
辰は神妙な面持ちで、天音の前に立っていた。
彼は決めていた。やっぱり天音には話さなければいけない。
反乱軍を止めたあの日に、辰は決心していた。
それが自分の役目であると。
「ねえ、…辰さん…。聞きたい事があるの…。」
しかし辰が話を始めるより先に、天音が話を切り出した。
天音も決めていた事がある。
それは昨日、青のお姉さんのお墓に行った時から。
「なんだ?」
「私の……お母さんは今どこにいるの?」
天音はためらいながらも、その言葉を口にした。
もう二度と口にする事はなかったはずの、“お母さん”という単語を…。
やはり、今知らなければいけない…。
天音はそう感じ始めていた。
―――もう逃げてはダメだ。