何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「やっぱ変!」

天音を見送ったりんの背後から、聞き覚えのある甲高い声がふってきて、彼はビクッと肩を震わせた。
そして、りんはその声の方へとゆっくり振り返った。

「なんや!びっくりしたなー。何してんねん?華子。」
「尾行。」
「は?」

そこにいたのは、どうやら天音の後をつけてきたであろう、華子だった。
そんな華子の謎の行動に、りんは首を傾けた。

「天音昨日から様子が変なんだよ。」

もちろん天音の様子が普段と違う事は、りんにも明らかだった。そんな天音を、りんよりも近くにいる華子が心配するのも無理はない。

「天音…泣いてた…。」
「え…?」
「おじいちゃんの手紙読んで…。」

そういえば、華子達は、昨日天音のおじいさんからの手紙を早く天音に見せたいと言っていた事を、りんは思い出した。

「あれは、嬉し涙じゃなかった。」

華子はめずらしく、真面目な顔でじっと地面を見つめていた。
一体、手紙にはなんと書いてあったのか……。
それは、とても天音には聞けない。しかし、その内容が良いものではない事を、天音のその涙が物語っていた。

「…やめとき。」

するとりんが低い声でつぶやいた。

「え?」
「心配なのは、わかるけども、尾行なんてやめときや。天音、一人になりたいんとちゃうか?」

りんには天音に何があったのか、そして手紙に何と書いてあったのかはわからない。
しかし、涙を流すほどなら、よっぽどの事だったに違いないと、想像はできる。
そんな彼女の気持ちを考えるよう、華子に優しく伝えた。

「…わかった。」

華子もりんの考えに、すんなりと納得して頷いた。

「でも、天音大丈夫かな…。」
「華子は、ホンマに天音の事が好きなんやな。」

それでも華子は、心配せずにはいられなかった。りんはそんな華子の様子を見て、微笑みながらそう言った。
華子が天音を心配する様子は、まるで母親ようだ。

「うん!」

華子が満面の笑みでそう答えた。

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