何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「どうして、この国に天師教さんがいるんですか?」

『この国に天師教はいらない…。』

辰のあの言葉を聞いてから、天音はずっとひかかっていた。
天使教という存在を。

「前に授業でも言ったが、荒れていたこの国をまとめたのが、初代天師教様だった。」
「はい。」
「人々は、そんな彼を信頼し、崇拝し続けた。」
「…。」

しかし、崇拝というその言葉に天音はいまいちピンとこず、思わず眉をひそめた。

「人は弱い生き物じゃからのう…。」
「え…。」
「そう思わんか?」

士導長が、穏やかな口調で天音に問いかけたが、天音はその意味が分からず、首を傾げる事しかできない。

「まだ早かったかのう…。」
「え?」
「いつかわかる時が来るじゃろう。」

今はまだその時ではないと判断した士導長は、天音に背を向け、その場を去ろうとした。

「あの!」

そんな士導長を呼び止めようと、天音は再度声をかけた。
もう一つ、あと一つだけどうしても聞きたい事があったから…。

「士導長様は、この城の中で、京司って人知っていますか?」

天音は聞かずにいられなかった。
やっぱり彼の事が気になって仕方ない。
それは、何かを予感する胸騒ぎなのだろうか…?

「!?」

士導長は天音に背を向けたまま、息をのんだ。

「どこでその名を?」

そして、士導長は何とか平静を装い、いつもと変わらぬ声色で、天音に尋ねた。
彼女にこの動揺を悟られてはいけないと、必死に隠しながら。

「え?どこって?ここ?」

天音はわけもわからず、ありのままの事実を素直に答えた。
そう、彼と初めて会ったのはこの城の中。それは紛れも無い事実。

「…さあ、知らんの」

士導長はその一言を残し、その場を去った。
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