何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「やっぱお前、天音に似とるわ。」
「え…?」
「あの子も、わいらが思いつかんような事言いだすしなー!」

京司はその言葉に、上に向けていたはずの首を元に戻し、今度はりんの方へと向いた。

「…教えてくれ。」
「何や?」
「使教徒は悪魔か?」
「何やそれ?そんなわけないやろ…。誰にそんな事聞いたんや?」

『悪魔の子…』

京司の頭の中には、その言葉だけが、なぜか鮮明に残っていた。
どこで聞いたかもわからないその言葉は、京司の心にこびりついて、離れようとはしない。
その意味を知りたかった。
自分が悪魔の子と言われた所以(ゆえん)を…。

「俺なんか、いない方がいい…。」

そう言って京司はそっとうつむいた。

「京司?」

彼の異変に気がついたりんは、心配そうに京司を見た。

「…俺、何言ってんだろ。」

京司は下を向いたまま、うわ言のようにぽつりとつぶやいた。
そして、そのままおもむろに立ち上がり、黙ってその場を立ち去ろうとした。

「京司!」

そんな京司をりんが呼び止めた。
今日の京司は、いつもの彼とはどこか違う。
いつもの自信満々の彼ではなく、どこか繊細で危ういガラス細工のような彼の姿に、りんは呼びとめずにはいられなかった。

「変えようや…。この国、この時代を…。」

りんは、一向にこちらを振り向こうとはしない京司の背中に訴えかけた。


「…俺には無理だよ…。」


京司はまた小さくつぶやいて、階段を上って行った。


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