何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「やっぱり、行けばよかったかな…。」

部屋に残された天音が、一人ポツリとつぶやいた。城の中はみな人が出払って、静まりかえっていたため、いやに自分の声が耳につく。
幸い薬を飲んだせいか、天音の体調は安定し、今はそんなに辛くはない。

「やっぱり…、ブサイクなのかなー…。」

そして、急に思い出したかのように、そんな言葉を口にした。それは、いつか村長さんが言っていた言葉。
天使教は妃を募集するくらいだから、そうとうなブサイクかもしれないという冗談のはずが、天音はいつの間にか、本当にそうだったらどうしようと心配までするようになってしまっていた。
やはり、全く顔も知らない人と、今後の人生を共にするのは、無理がある。

「やっぱり、行かなきゃ!」

そう言って、天音はベットから起き上がり、立ち上がった。
せめて、どんな人なのか顔ぐらい見たい。
その思いが、天音の足を広場へと向かわせた。
天音は勢いよく部屋の扉を開けて、外へと飛び出した。

まだ間に合うはず!
そう思い走り出したが、城の中の長い廊下には全く人気がなく、今日はいつもより不気味に感じた。

「……く……。」


—————?

その廊下をどこかおぼつかない足で走っていた天音の耳に、何かが聞こえた。

「う…っくっ…ひっく…。」

…泣き声…?

城の中があまりに静かすぎるからだろうか…。
どこからか、人の泣き声のような声が聞こえてきた。
その声に、天音は思わず足を止めたが…。

「…。」

次の瞬間、また何も聞こえなくなり、静寂が訪れる。

「気のせいかな…。」

そう思った天音は、またすぐ足を動かし始めた。
とにかく今は、広場へ急がなければならない。

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