何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「なーんだ、全然顔見れないじゃん!」

華子は残念そうに、がっくりと肩を落としていた。
なぜなら、天使教の顔には帽子から垂れる薄い布がかけられていて、顔は民衆には見えないようになっていた。
元々、天使教の顔を普通の民が見れるなんて事は、今まで全くといっていいほどない。
この国では、天使教が神。神の顔など滅諦に見られるものではない。
その概念が民衆には植え付けられている事で、彼は尊い存在へと簡単に変換されていくのだ。

「…。」
「星羅?」

そんな華子の横で、星羅は食い入るように、顔の見えない天師教の方を見つめていた。
即位式は、とどこおりなく行われ、終盤にさしかかった。
それは、天師教が城へと続く階段を上っている途中だった。

ヒュ―――!

どこかで聞いた事のある大きなその音が、広場に鳴り響いた。

「え…?」

その音に思わず京司が足を止め、後ろを振り返る。

「な!?」

すぐに、京司の周りを一斉に護衛の兵士達が取り囲り、辺りは一気に殺気立つ。

バーン


「…花火…?」

その音の方向へと視線を送り、京司が眉間にしわをよせた。
彼の見上げた空には、キラキラと輝く花火が空を彩っていた。

「そんなの聞いてないぞ。」
「花火なんて演出あったか?」

京司の周りの護衛達は、そんな事を口にしながら、慌ただしく動き出した。
この音に誰もが驚いたのは無理もない。この町で花火を上げられた事は、ここ何年もなかった。
そのため、兵士や、民衆達でさえも、もしかして爆弾がしかけられたのではないかと、冷や冷やした。
しかし、その正体はただの花火だった事に、人々はホッと胸をなでおろした。

「天使教様、お怪我などは?」
「いや、問題ない…。」

護衛の兵士の一人が、京司に念のため尋ねたが、彼に害がなかった事はどう見ても明らか。
そして京司はまた、城へと歩を進め歩き始めた。

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