何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
次の日

「そういえば…。」

風邪がすっかりよくなった天音は、また城の中で迷子になりたくないと思い、城の中を覚えるため、地図を片手に一人散策していた。
そんな時、ふと思い出した事があった。

「あの時、泣き声がした…。」

即位式のあの日、もうろうとした意識の中で、この城のどこかからか、誰かの泣き声のようなものが聞こえたのを思い出した。

「こっちの方だったかな?」
「そっちへ足を踏み入れては、だめよ。」
「え…?」

天音は背後から聞こえたその声に、思わず振り返った。そこには白いローブを纏い、フードを深く被った、いかにも怪しげで、妖艶な雰囲気を纏う女が立っていた。体格と声からして、女なのは間違いない。
しかし、そんな怪しげな格好にもかかわらず、天音は全く危機感を持たず、同じ妃候補の人かもしれないと、呑気な発想でその人物をマジマジと観察していた。

「あ、私方向音痴みたいで…。」

しかし、何故か威圧的なオーラをかもし出すその女に、天音は言い訳をするように、そんな事を口走った。
いくら人見知りのしない天音でも、このオーラの前では萎縮せざるを得ない。
< 62 / 339 >

この作品をシェア

pagetop