何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「やはり、花火の予定などなかったそうです。」

昨日の即位式での花火の打ち上げについて、報告が宰相へとあがっていた。
名目上は宰相は、天使教の補佐する機関であったが、しかし、この国での実際の政治を取り仕切っているのは、宰相と呼ばれるこの男だった。
50歳近くになる彼のトレードマークは、鼻の下から顎まで繋がる髭。そして、彼の目は、いつでもつり上がっていて、いかにも厳しい人物である事を表している。

「いったい誰が何のために…。」

宰相は、なぜ急に花火が上がったのか、不思議に思い調べさせていた。
どんな些細な事であろうと、この国に反する者への火種は、すぐに消さなければいけない。
それが、この国の政治を任されている彼の責任なのだ。

「まぁ、天師教様に危害が及ぶ事はなかったですし…。」

隣で宦官の男が、そんな呑気な事を口にした。
この宦官は、宰相の事務処理的な役割を担う人物であったが、いつも宰相にゴマをすりながら、くっついて歩いているだけの無能な人物だった。

「…」

宰相はそんな宦官とは反対で、未だ眉間にしわを寄せたままだった。
何事もなかったものの、彼はまだ納得はしていないようだ。

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