何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「あれー?華子ー?どこ行っちゃったんだろう。てかここどこ?」

天音はあの騒ぎの人波に押され、いつの間にか知らない場所へとやってきてしまった。しかし、方向音痴の天音は、何とかもと来た場所に帰ろうと試みたが、それは無駄な努力に終わったのは、ゆうまでもない。

「どんどん迷っているような…。さっきの通りどこだっけ?そうだ、高い所!高い所に登ってみればわかるかも!」

天音はとうとう、人があまり立ち寄らない町の端にある、裏山の麓まで辿り着いてしまっていた。
そして、村にあった丘からは、村が見渡せた事を思い出し、高い所へ登ってみよう。という、何とも安易な考えから、この裏山を登り始めた。

その山は木々が乱雑に生い茂って、誰も手入れをしていないのは明らか。しかし、そんなに急ではなく、体力には自信がある天音は軽快に登る事ができたが…。
20分ほど歩いた頃…

ガサ
静けさが漂う山に、天音が落ち葉を踏んだ音がやけに大きく響き渡った。

「誰だ!」
「へ??」

こんな場所に人がいるはずなんてないと思っていた天音は、突然耳に飛び込んだその声にびくりと肩を震わせ、横を振り返るとそこには人が居た。

「あ、あの…。」
「女?」

天音は突然の出来事に、キョロキョロと挙動不審に周りを見渡す。よく目を凝らしてみると、木々の間に隠れるように小さな小屋がある。
ボロボロで人が住んでいるのかも定かでない、小さなその小屋の前には、一人の男が木の切り株にこしかけて座っている。

男は細く、鋭い釣り目で天音に睨みをきかせていた。足が長くすらりとした体系。立ち上がったら、おそらく背は平均男性よりは、高い方だろう。髪は、肩までかかりそうな黒髪の長髪で、耳にはたくさんのシルバーのピアスをジャラジャラつけいる。年はおそらく天音より少し上のように見える。

「ん?何これ?」

お世辞にも優しそう、とは言えない風貌の男からの威嚇の視線を、天音はものともしない。
普通なら、そんな男に睨まれたら怖気づいてしまうが、彼女は世間知らずなうえ、怖いもの知らずな所があるようだ。

それよりも彼の足下に転がる、たくさんの大きな丸い玉が目に入り、天音はそちらの方が気になりだした。
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