何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
バン!!
その時、食堂の扉が勢いよく開いた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

そして、そこに立っていたのは、息を切らした天音だった。

「天音!!」

リーンゴーン。
天音が到着したのと同時に、夕食の始まりを伝える鐘の音が鳴り、点呼を取る兵士が食堂へと入って来た。

「何をしている、早く席につけ。」
「はぁ、はぁ、はぁ。…はい。」

一人の兵士が天音に早く席に着くように促す。
そして天音は息が上がって、ふらふらになりながらも、なんとか席に着いた。

「ほら、お水!」

華子がすかさず、天音に水を差し出す。

ゴクゴクゴク
天音は勢いよくその水を飲み干した。

「はぁー。間に合った。」

やっと天音は言葉を発することができ、机に突っ伏した。

「よかったー。」

華子もそんな天音を見て、ようやく安堵の表情を浮かべた。

「これからは、気をつけるのね。」

そして星羅はやっぱり、冷静にそう言っただけで、さっさと食事を始めてしまった。

「よかった。やっぱり天音は、それまでの器じゃなかったね。星羅。」
「へ?」

華子がへへっと笑って、星羅の方を見たが、星羅はこちらに視線を向ける事はない。
そんな星羅の横で、何の事を言っているのか理解できずにいた天音が、ぽかんと口を開けたまま固まっている。

「こんな所で帰るような奴じゃないって事!」
「もちろん!足が速いのだけは自慢だから!」
「いや、そうじゃなくて…。ま、いっか。さー、ご飯食べよ!」

華子の言葉に、見当違いの言葉で返す天音だったが、そんな天音を見て華子はまた笑った。

「うん。お腹空いた。いっただきまーす。」

そして食堂に天音の元気な声が響いた。

< 84 / 339 >

この作品をシェア

pagetop