何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「それって、どのくらいの期間城に行くの??」
天音が真っ先に疑問に思った事を、おじさんに投げかけた。なぜなら、先程の説明ではその事については、一切触れていない。
「んー、書いてないな。」
やはり、その答えは、御触書には書かれていないようだ。
今わかっている事は、妃になりたければ、しばらくの間村を離れて、城で暮らさなければいけないという事だ。
「…。」
天音は、何かを考え込むように、黙りこくった。
「あ、お金はかかるの?」
そしてまた、思い出したように天音が口を開いた。
そもそも城に滞在するのにお金がかかるのならば、無理な話。天音の家の財政状況に、そんな余裕があるわけもない。
「いや、いらないみたいだな。ああ、三食昼寝付きだって書いてあるよ。」
おじさんは、一番重要なその一文を、天音に伝え忘れていたようだ。
「マジ!?」
それを聞いた天音は、とたんに目を輝かせて、その御触書を見つめた。
とりあえず、条件はクリアしてる。 その上、お金がかからなくて、三食昼寝付きなんて絶好の待遇だ。
そう、この時、天音の心は完全に傾いていた。
やはりこれは、きっと神様がくれたチャンスに違いない!!
不安は一気に吹き飛び、そんな風に思い始めていた。
「妃を募集するなんて、そうとう女に困ってるんだなー。」
「まったくだ。ハハハ。」
しかし、そこに集まっていた村のみんなは、もちろん天音の気持ちなど知る由もなく、どこか他人事のように笑っていた。
天使教が住む城があるのは、この国の中心にある城下町。
もちろん、城はこの村からは、かなり離れた所にある。おそらく、この村の者は誰一人、城には行ったことがないはずた。
そんな辺鄙な場所にあるこの村で、天使教の妃の募集などされたところで、誰が本気で妃になろうなんて、考えるだろうか。
みな、どこか別世界の次元の話。としか考えていない。
そう、まさかこの村から妃候補が出るなんて、誰が考えついただろう。
「てんし…何とかとか、よくわかんないけど、ま、私が行ってサクっと妃になって来るよ!!」
天音は、突然そこに集まったみんなの前で、当たり前のようにそんな一言を発した。
「へ…?」
その瞬間、辺りが静まり返り、一斉にみなが天音の方を見た。