何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「エーーー!!」
そして、村人の何人かが、驚きのあまり声を上げた。
「ま、待て天音ちゃん!!」
天音の一番近くにいた、リュウの父であるおじさんが、すかさず止めに入る。
「何?」
しかし、天音は、みんながなぜそんなに驚いているのか、おじさんが必死に止めに入っているのか、全く理解していない。
妃になりに行くのなんて、ちょっと隣町までおつかいに行ってくる。くらいの軽い気持ちでしか考えていないのだ。
それは、村育ちで無知な天音には、仕方がない事なのかもしれない…。しかし、それが逆に、怖い物知らずというか、武器になる場合もある。
「いや、君はこの村で育って…。」
常識を持った大人のおじさんは、天音のような村育ちの子には、妃になる事など到底無理だと考えている。普通の大人なら、そう考えるのが当たり前だ。
「そうだよ。」
しかし、無知な天音には、その無謀さが、全くと言っていいほど伝わっていない。
そんな、天音の無垢な瞳が、キョトンとしながら、おじさんを見つめていた。
「何寝ぼけた事言ってんだ?こんな頭悪い、ちんちくりんな村女には無理だって!」
するとリュウは、憎たらしく、そしてストレートに「無理」だという事を天音に伝えにかかってきた。
子供だけれども、何故か天音よりも常識があり、大人びたリュウには、大人達の考えは一目瞭然だ。
そんな彼は、大人達の考えている事を、ちゃっかり代弁してくれた。
「リュウーー!」
天音は眉間にしわを寄せ、天敵リュウを睨み付ける。
「こんなうるさい女すぐ嫌われるって。」
「何言ってるの!やってみないうちから、どうして無理だって言うのよ!!」
その言葉は、天音の口から自然と出たものだった。
そしてそれは、天音の心がもう決まっている事を表していた。
「だって、誰でもオッケーなんでしょ?それに私が妃に選ばれれば、この村だってもーっと豊かになるんだよ!」
そこにいる村人達は、天音が妃になるなんて、リュウが言うように、これっぽっちも考えなかった。
しかし、天音はどこまでも本気で、得意げに胸を張っている。
「た、確かに身分は問わないってなってるよな。。」
天音の言葉に、周りにいた村のみんなが、ザワつき始める。
確かに、これといった条件もないし、こんな小さな村の者はダメ。なんて一言も書いていない。
村人達は、天音に感化され始め、もしかしたらという希望が少しずつ生まれ始めていた。
天音が言うように、もし彼女が妃になったりしたら、この貧しい村も変わるかもしれない…。 そんな希望すら…。