私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

(亮の追憶)

 俺と彼女が出会ったのは、軍の入隊試験の時だった。
 初めの印象は、大人しい少女。それ以外でも、以下でもない。武術のテストの帰りに、肩がぶつかり剣を落とした。
 それを俺が拾ってやった。ただそれだけの出会いだ。
 
 それから時が流れ、三年後。
 同じ指揮官の許に就いた彼女と俺は、一緒に戦地を駆けた。
 最初抱いていたイメージとは違い、彼女は活発で明るい少女だった。なんだかんだと言い合いながら、俺達は切磋琢磨し合った。
 その太陽のような笑顔に、俺はいつしか惹かれていった。
 俺だけじゃない。
 仲間は皆、彼女が好きだった。
 陽だまりが嫌いな人間なんていないだろ?
 彼女といると、どこか懐かしく、暖かな気持ちになれた。
 本当に、大好きだった。
 だから、ある日、告白した。
 だけど、結果は玉砕だ。

「ごめんね。好きな人がいるの。叶わない人なんだけど、今でも好きなの」

 それでも、俺は諦められなかったよ。
 だって、叶わないんだろ?
 だったら、さっさと忘れて、前を見たほうが良いじゃないか。
 俺だったら、絶対哀しい思いなんてさせない。
 柚を一番大事に思う。
 どんな時でも、全力で愛する。
 俺はある日、再度告白し、ついにそう叫んだ。
 俺の想いを受け、彼女は微笑んだ。
 
 そして、話してくれたよ。
 誰を愛しているのか。
 それは、実の兄だった。
 彼女はかねてから、兄上の自慢ばかりしていた。
 彼は本当に強くて、優しい。山賊のカシラをしてるから、おおっぴらには言えないけど。そう、良く話をしていた。
 仲の良い兄妹なんだなと思っていた。
 だから、その事実に俺は、少なからずショックを受けたよ。だがそれは、片想いなのだと彼女は語った。
 許されない。告げられない想いだからこそ、忘れられない。
 そう呟いた。
 皮肉な事に俺は、彼女が、
「アニキがね。アニキはね――」
 そう、兄を愛しそうに呼ぶ彼女が一番好きだった。
 
 俺の初恋は実らず、その後別の部隊に異動となって、彼女と会うこともなくなった。
 それから、時が流れ、今から十三年前の事だ。
 彼女は、三関になっていた。
 普通の昇進より少し速い。普通は能力があっても十年はかかるだろう。
 まあ、コネなら一番速く上がれるが、彼女にコネはなさそうだった。
 俺は、鉄次と共に彼女の下に就いた。
 
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