私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
* * *
北の花街は、さっきの花街と違って、女性もちらほらと見かけられた。
客引きは相変わらず男性だけど、道を歩いている者の中に女性が何人か見られる。艶やかな服装に、濃い化粧の女性もいれば、地味な服装で薄化粧だったり、男装風な服装の女性もいた。
不思議に思っていると、月鵬さんがこっそり教えてくれた。
この花街でメインで働いているのは、女性だけではないのだそうだ。異性との飲食だけを行うのが、この北の花街の特徴なのだそうだ。
だから、それ目当てで女性客もこの花街に通うらしい。
つまりは、この花街は、ホストクラブと、キャバクラと、二丁目のおねえさん、おにいさんの密集地帯なのだ。
そのためなのか、警備が薄いらしく、門の前には番人はいなかった。
でも、トラブルはしょっちゅう起きるので、街に警察(サッカン)は常駐しているらしい。
「もしかして、月鵬さんも来たことあるんですか?」
何気ない質問だったんだけど、月鵬さんの肩がぎくりと震えた。
図星?
「うん、まあ、鉄次と何回か……」
……ホストクラブか。二丁目か。どっちかだな。
テレビでしか知らないけど、この世界のホストクラブとか二丁目って、どんななんだろう?
「あの、私も今度連れて行ってもらえますか?」
遠慮がち、つつ、好奇心いっぱいで聞いてみると、月鵬さんは目を見開いた。
「だめよ! あなたはまだ子供でしょ!」
「子供じゃないですよぉ! 爛では大人の年齢だって言われましたよ?」
「爛ではね。でも、岐附ではまだ子供なの!」
気取るように指を振る月鵬さんに、私はむくれてみせた。
「じゃあ、いつから大人なんですか?」
「十七からよ」
「一歳だけじゃないですか!」
「……えっ!」
「え?」
きょとんとする私に、月鵬さんは唖然とした目を向ける。
「十四くらいだと思ってた……」
「はあ!?」
私は、呟かれた言葉を聞き逃さなかった。
思わず声高になる。
「ひっどいですよ! 十六ですう!! 高二ですう!」
「分かった、分かった、悪かったわ! ごめん!」
二歳差だとしても、この年での二歳差は重要なんだから! 高校生と中学生の差なんだからね!
私はすっかりむくれてしまった。でも、月鵬さんが拝んで謝るので、許してあげることにする。
(でも、もしかして、アニキもそれくらいだと思ってるのかなぁ……?)