私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
* * *
私達は一軒のお店に入った。
お店の中は、ホールでお客さんとお姉さんが飲んでいるような、イメージしてた感じではなかった。
先程の花街の店と代わり映えない。
代わったものといえば、番頭の席にいたのは中年男性だというだけだ。月鵬さんは早速フードを外した。
男性は月鵬さんに気づき、手もみしながらやってきた。
「これはこれは、月鵬様。また花野井様をお探しで?」
「ということは、いるのね?」
「はい。お見えになられていますよ」
まったく――と、浅いため息を漏らしながら、月鵬さんは上がり框に足をかけた。
「案内してくれる?」
「はい」
私達が案内されたのは、どんちゃんと騒がしい店の中で、ひときわ騒がしい部屋だった。月鵬さんが襖に手をかけたときに、私はふいに横を向いた。
廊下の奥は明かりがなく、真っ暗で、とても静か。そんな暗がりに、ゆらっとした赤い光りを、目の端が捉えた気がしたからだ。
そこには、確かに光があった。
廊下の奥、角に、人影が二つ。
(アニキだ)
暗いし遠いから、顔かたちははっきりしないはずなのに、私は何故だかそう思った。
「月鵬さん、アレ」
「え?」
すでに襖を開けていた月鵬さんが振向く。
指差したときにはすでに、二つの影は、角を曲がってしまっていた。月鵬さんは私が指したほうを怪訝に見て、私の顔を見比べたけど、
「あら、月鵬じゃないのぉ!」
という声に、部屋の中に振り返った。
(あれ? この声って……)