私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

 * * *

 その日の夕方に、月鵬さんと鉄次さん、さらには亮さんまでが屋敷を訪ねてきた。
 私はちょうど屋敷をぶらぶらとしていて玄関まで来ていたので、メイドさんに応対されていた三人に会うことが出来た。

「月鵬さん、てんちゃん! お久しぶりです!」

 私がメイドさん越し声をかけると、月鵬さんは一瞬ギクリとした顔をしたような気がした。
 私は訝しりながらも、「亮さんも、お久しぶりです」と、亮さんにも挨拶をした。

(この前みたく、俺は無視かって拗ねられても面倒だし)
 亮さんは相変わらずな態度で、そっぽ向く。

(本当に、この人は……自分に正直すぎるわ)
 私は半ば呆れながら、月鵬さんと鉄次さんに視線を移した。

「私、二人に話したいことがあったんですよ」
「あら、そうなの? じゃあ、用事が終わったら聞かせてよ」
 鉄次さんがそう言って微笑むと、月鵬さんは少し困った顔をして、
「ごめんね。私は用事が済んだら他の仕事しなきゃいけないのよ。明日のお昼、また来るからその時でいいかしら?」
「あ、はい。もちろんです」

 私は明るく返して、お客さん用の内用靴を靴箱から取り出した。
 メイドさんが慌ててたけど、私にもやらせて下さいと言ったら、一緒に並べてくれた。

 内用靴は、冬用の物に変わった。
 竜皮で出来ていると聞いていたけど、正確には毛皮の方だったみたい。

 ドラゴンに毛があるなんて驚いたけど、葎王子によれば、このドラゴンは蛮天南(バンテナ)というドラゴンで、主に千葉、爛、岐附に生息していて、通常の翼竜よりも高く飛ぶためか、体毛があり、羽も羽毛に覆われているんだとか。

 私はみんなと一緒に応接間まで来たけど、みんなの視線から、あなたはここまでねという気配を感じたので、私はさっさと退散した。仕事の話のようだし、しょうがないよね。
 私は鉄次さんがくるまで、部屋で待機していることにした。
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