独占欲強めな弁護士は甘く絡めとる

 あぶなかった。あのまま席にいたら、間違いなく涙がこぼれていた。

 ぎゅっと目をつむり、朝から重苦しさを孕んでいる下腹部に手を当てる。感情の起伏が激しいのは、きっと月の体調不良も関係している。

 でもそれ以上に、やっぱり悲しかった。

 ふうと息をつき、気持ちを落ち着けてからドアノブを開けようとしたけれど、ヒールがもつれて正面からぶつかった。殴打した額を右手で押さえながら、そのまま寄りかかるように扉に身を預ける。

 時間が止まったみたいにしばらく動けなかった。

 割り切れない気持ちがこみ上げて、こぼれそうになる言葉をどうにか飲みこむ。

 好きな人がいるのなら、どうして私のマンションに来たりするの?

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