独占欲強めな弁護士は甘く絡めとる

「これからクライアントとの打ち合わせだから。そのあとになるけど」

 念を押すように言われて、思わずうなずきそうになったとき、通路の方から声がした。

「ただいまー」

 峰島先生がはっとしたように振り返る。私もつられて視線を動かすと、帰所した神谷所長が通りかかるところだった。

「いやー、雨が急にひどくなってさ」

 梅雨の湿気を吹き飛ばすみたいに笑顔を浮かべる所長は、フロア全体に通るような声で話しながら通路を進んでいく。その後ろを当然のようについていくのは、常に冷静で微笑むことすらしない鋼鉄の所長秘書だ。

 凛と背筋を伸ばす彼女は腕にタオルをかけ、所長の濡れたカバンを大事そうに抱えている。その涼やかな目が、ふとこちらを見た。

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