追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました
「……はぁ、まだまだだなぁ」
「なにが、まだまだなんだ?」
独り言に返事があった事にギョッとして顔を上げれば、カーゴがカウンター越しに私を見つめていた。
「っ! カーゴいつからいたの!?」
私はビクンッと体を跳ねさせた。
「今、座ったところだ。ずいぶん考え事に集中していたみたいだが、なにかあったか?」
入店のベルにも気付かないなんて、私は仕事中にどれだけ気を抜いているんだ!
「ごめんねカーゴ! すぐに『いつもの』を用意するわね」
「まぁ、いつものはもらうけどさ。それで、なにがあったんだ?」
「うん、実はね――」
私は厨房で盛り付けを進めながら、カーゴに昼間のお客様との一幕を話して聞かせた。
「なぁアイリーン、俺は君がその男性客に話し掛けた事よりも、その客の素性が気にかかる」
「え?」
提供した『いつもの』を端から頬張りながら、カーゴは眉間に皺を寄せる。
「一年次の終了記念が財布になったのは俺たちの代からだ」
「そうなの!?」
私はてっきり、以前からずっと財布なのかと思っていた。
「あぁ、学園案内に小さく注釈が載っていた。これまでの校章入りのハンカチから変更になったんだ。だからもし、その客が持っていたのがセント・ヴィンセント王立学園の財布なら、その客は俺たちと同学年という事になるぞ」
「でも、今は長期休暇じゃないわよ? なんでまた、わざわざ学校を休んでこんなところにいるのかしら」