偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
表参道の国道から少し路地に入った大人の隠れ家的なイルブールは、暖かな間接照明の中、十人ほどの来客がパエリアなどの地中海料理を囲んで賑わっていた。

店内には、叔父がスペインに旅行に行った時に買いそろえた青や赤などの色鮮やかなショットグラスや、サグラダファミリアの絵柄のついたオリーブオイルを入れるボトルなどが棚に飾られていて、高級感はないもののアットホームな親しみやすい雰囲気だ。

出入口付近にはしっとりとひとり飲みするにはちょうどいいお洒落なテラス席もある。そして、丁寧に磨かれて黒光りしたグランドピアノが店の一番奥に堂々と置かれていた。

「愛美ちゃん、後で飲むだろ? 用意しとくよ」

「ほんと? いつもありがとう」

「いいって、仕事で疲れてるのにお願いしてるのはこっちなんだ、遠慮すんなって」

ニッと口髭を歪めて笑うと、歯並びのいい白い歯が覗く。
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