ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
 * * *

「――さん! 桜井さん!」

 身体をゆさゆさ揺すられて、目が覚める。

「うぅん……」

「ちょっと、桜井さん、大丈夫!?」

 ゆっくりとまぶたを開く。ぼんやりする視界がはっきりすると、そこはショッピングセンターの従業員階段前だとわかった。

「ここは……。あ、て、店長?」

 心配そうな顔で私を見つめるその人は、私の勤めるショップの上司である、店長だった。異世界トリップ前に叱られたまま別れてしまった、あの――。

「大丈夫? 救護室に行きましょうか?」

「あ、いえ、大丈夫です」

 私が頭を押さえながら起き上がると、店長が肩を貸してくれた。

「いったい、どういうことなの? 勤務中に突然消えて一週間も連絡が取れなくなったと思ったら、こんなところで倒れているなんて」

「えっ、一週間!?」

 店長の言葉に驚く。異世界とこの世界では時間の流れが違うのだろうか。それとも、エルフたちが気を遣ってサービスしてくれた? いや、それはありえないか……。

「そうよ。あなたのアパートを訪ねても帰っていないし、実家に連絡しても知らないって言われるし、電話はずっと圏外だし……。そろそろ捜索願を出したほうがいいのか、ご両親に相談されていたのよ」

「そうだったんですか……」

「で、どういうことなの?」

 本当のことを言っても信じてもらえないと思うので、一週間前に非常階段から落ちて頭を打ってから、記憶がないことにしてしまった。

「じゃあ、あなたにとっては、今日が一週間前というか、非常階段から落ちてすぐなのね?」

「そういうことになります」

「なんだか、神隠しみたいな話ね……」

 店長は訝しんでいたが、なんとか納得してくれたみたいだ。

「頭も打っているみたいだし、一応病院で検査をしたほうがいいわよ。今日はもう帰りなさい」

「はい、ありがとうございます」

「だいぶ心配しているから、親御さんにも連絡してあげて」
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