サヨナラのために
様子がおかしいことに気づいたのは、その日の終わりのホームルームが始まる少し前から。
文化祭まであと3日。
みんな、焦りと楽しみが混ざって興奮している。
誠也のファンの子たちの視線を感じる気がしてそちらを向けば、クスクスと笑いながらまっすぐこちらを見てくる。
嫌な予感がするのは、気のせいだろうか。
「ほらー、ホームルーム始めるぞ!早く席つかないと準備の時間も減るぞ!」
そわそわしながらも席につき、ホームルームが始まった。
「はい、じゃあ俺からの連絡は以上。そういや、看板はどうなってんだー」
突然のフリに、私は一瞬声を失う。
看板の進捗状況を知っているのは、私だけだ。答えられるのは私しかいない。
「あっ、あの」
「バッチリ!完成しましたよー!」
高い、作ったような声。
その声は、もちろん誠也のファンの子たちのもので。
私は何が起こっているのか分からなくて、ただ呆然と彼女たちを見つめるしかなかった。
「間に合わなそうだったけどー河合さんたちに手伝ってもらってなんとか終わったんですよー!」
河合さんは、昨日私が声をかけた子だ。
おおー!、とクラス中から歓声が上がって、河合さんたちは照れ臭そうに笑う。
どうして?
なんでそんな風に笑えるの?
ニヤニヤしながら、誠也ファンの彼女たちがこちらを見ているけど、睨み返す気にもならない。
「みてみて先生ー!」
黒板の前に広げられた看板には、虹色の花がいくつも散らばる中でジャンプする、うちの制服を着た高校生の後ろ姿が描かれている。
コンセプトも、全く違う。
「よくここまで完成したな!みんな拍手ー!」
嬉しそうな担任の声を合図に、拍手とさらに大きな歓声が巻き上がる。