密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「突然のことで申し訳ないけれど、君たちには職を辞してもらうことになったよ」

 執務室の呼び出され、新たな任務を待ちわびる私に告げられたのは突然の解雇通告だった。

 クビ――――!?

 え、うそ……待って……私いま、もしかして解雇された!?

 私の耳が敬愛する主様のお言葉を聞き逃すはずがない。だからこれは主様がおっしゃられたことで間違いはないはずだ。

 でも、そんな……

 あまりのショックに気が遠くなる。これまで立っていた現実が、この世界が足場から崩壊していくようだ。
 地面の底が抜けてしまったように、次第に立っていることも出来なくなった私は、無言のまま背後へ倒れていく。

「サリア!?」

 焦ったような主様の声が遠のく。
 とっさに支えてくれたのは同じく部屋を訪れていた仕事仲間だろう。けれど気にしている余裕はなかった。

 どうして……
 どうして?
 もうあんな思いはしたくないって、嫌だって、あんなに願ったのに! どうして私はまた同じことを繰り返しているの?

 神様は残酷だ。でもそれ以上に、まるで以前にも同じことがあったような口ぶりに驚かされている。
 私がお仕えしていたのは主様ただ一人のはずなのに、どうして……?
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