身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
姉の言葉を聞いてから閑を見ると、彼は微笑んで可乃子を見ていたけれどいつも琴音に見せる笑顔とは少し違う気がした。どこか居心地が悪そうなその表情に、琴音の胸にもやもやとしたものが立ち込める。
付き合って、別れた。その事実が目の前に見えた気がして、琴音は咄嗟に閑から目を逸らす。
過去の恋人と再会して、しかも妹の方と縁談が進みもうじき結婚するなんて、気まずくて当たり前だろう。
その割に……と腕の中へ視線を落とせば、可乃子の方はあっけらかんとしたものだった。
「あら? 琴音、また背が伸びた?」
「高校からは伸びてないっ!」
「冗談よ。おめでとう、ふたりとも。結婚するんですって?」
琴音のコンプレックスを知りながら意地の悪い冗談を言ったあと、可乃子は見惚れるほど美しい笑みを浮かべた。
仕事が忙しいのか、以前より少しほっそりとしているだろうか。昔は長かった髪が、今はばっさりとショートボブまでカットされて、露わになったうなじが一層、彼女を華奢に見せている。
「うん、ありがとう」
照れくさいけれど素直に祝いの言葉を受け取れない、複雑な心情を今は隠して笑顔で返す。
「とりあえず、家に入ろう? お姉ちゃんも帰って来たって知ったらお父さんお母さん喜ぶよ」
家の方角へと振り向いて歩き始める。可乃子が左側、右側には閑が来て、閑に遅ればせながらの言葉を向けた。
「閑さん、お疲れ様。お仕事の後なのに、ありがとう」
「いや、こっちこそ急で悪かった」
どことなく固く聞こえる口調と、それ以降続かない言葉に何か気まずさを感じてしまう。けれど、そのとき、二人の間にある右手が温かいものに包まれる。
一瞬、ぴくりと指先が反応してしまったけれど、きゅっとその手を握り返した。
たったそれだけで、心を覆ったもやが少し晴れたような気がした。