身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
しかし、わが親ながら意外に情に厚いふたりはできることなら穏便に、今の状況を続けたいと思っている。
「あなたがそう言うなら、いいわよね。閑も、お願いだから一度会って見なさい。大人になってから会うのは初めてでしょう」
「……そうですね」
考え事をしながら母親の勢いに任せて相槌を打てば、即座に手を打つ音がした。
「良かったわ! それなら今すぐ染谷のお家に連絡を……」
立ち上がろうと腰を上げた母親に、咄嗟に彼女の名前が出てしまう。
「……琴音」
すると両親ふたりの目が見開かれ、視線が集中した。
「……琴音さんにお会いしたいと、染谷家にお伝え願えますか」
今の今まで、記憶は薄れていた。けれど、結婚を意識して会うならなぜか、迷うことは何もなかった。これまで、誰ともそこまで考えることはなかったのに、結婚をと言われて即座に浮かぶ顔が幼い頃に「お嫁さんになって欲しい」と言った幼稚園児の顔だというのが、解せないが。
――いや、誓ってそんな趣味はないけど。
閑にとって、結婚するということは相手を守るということだ。その意識が、幼い頃に必死で伸ばされた小さな手を思い出させたのかもしれない。
――まあ、あの子もすっかり忘れてるんだろうけど。
過去に一度、再会した時のことを思い出して苦笑した。