身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~


 控室で衣装を変えメイクも洋装に合わせて直してもらい、まとめ髪に薄桃と白のピオニーを刺す。

「それにしても、素敵な新郎様ですね」

 ヘアメイクを施してくれた女性スタッフが、先ほどのやりとりを思い出したのだろう。くすくすと笑いながら、装いの最終チェックをしてくれる。

「……素敵すぎて困ります」
「お似合いですよ」
「……ありがとうございます」

 社交辞令だとしても、琴音は素直に受け取ることにした。釣り合わないのではないかとか、並ぶのは恥ずかしいだとか、うだうだと悩むのは止めにしたのだ。

 可乃子と言い合いをして、二週間。悩んだし、今も気まずい。
 可乃子の琴音への悪意を感じたあれから、その理由を考えた。もしかして、閑のことが今も好きなのかという可能性に気が付いてしまった。
 だけど両親が一緒に居た手前もあってか、式の前に「おめでとう」と言ってくれた。

 閑と結婚するのは琴音だし、彼も琴音と結婚したいと言ってくれていた。再会した日に『琴音がいい』と言ってくれたではないか。

 誰と比べて、という言葉ではなかったけれど、琴音を安心させるためにそう言ってくれたのかもしれないけれど、琴音はそれを信じようと決めて結婚を承諾したのだ。

 ――閑ちゃんを信じて、堂々とすればいいの。

 そう改めて心に決めたとき、少し自分が強くなれたような気がした。心に刺さった棘は抜けない。だけど、これからふたりで気持ちを育てて夫婦になれば、それは溶けて消える棘だ。
< 152 / 239 >

この作品をシェア

pagetop