身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
 シートベルトをしようとすると、少し汗ばんだ手のひらが頬に当てられる。ひんやりとして感じるのは、琴音が少しアルコールで火照っているからだろうか。

「少し熱いな。酔っぱらった?」

 同じように感じたらしく、そう問いかけてくる閑の表情は、もういつもの穏やかなものに戻っていた。

「そんなに飲んでないんだけど……元々弱いから」
「何を飲んだ?」
「カシスチューハイ。でも半分も飲んでないよ」

 琴音は酒が好きというより、飲んで食べて喋る、その雰囲気が好きだ。あまり個人的には行けなかったが、仕事で納期を迎えた時の打ち上げなどは時々あった。

 今日は、その時の仲間でもある三輪とおよそ半年ぶりに会えて、楽しかった。ふわりと表情が緩むと、それを見て閑も微笑む。

「楽しかった?」
「うん。久々に会えてうれしかった」
「それはよかった」

 そうして、唇が重ねられる。数度啄むような軽いキスをしてから耳朶を擽られ、吐息のような囁きが聞こえた。

「早く帰ろう」

 ――ああ、本当に、甘い。
 まるで蜂蜜の中にとっぷりと浸かっているような、甘さと少しの束縛を感じられた。

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