身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
新居といっても、閑がずっと暮らしていたマンションに琴音が移り住んだだけなのだが、ひとりで住むのとふたりで住むのとではかなり違う。
寝室のベッドは、これまでのセミダブルでは小さいからと大きなものを新しく入れてくれたそうだ。琴音が来た時には、既に新品のベッドが寝室の中央に置かれていた。
クローゼットを空けて、洗面所の棚も増やし、後は生活しながら少しずつふたりで暮らすために改善していく。琴音はそれほど物も服もなかったから、広々としたクローゼットはすぐには埋まらなかった。
閑から見れば、琴音は服を持っていなさ過ぎたそうだ。遊びに行く余裕もないので服を持つ必要もなかったのだと言えば、珍しく閑は舌打ちをしてぼそりと言った。
あの会社は雪ぎが必要だ、と。やっぱり、閑が何かしたのだと琴音は確信した。
マンションに帰りついて、クローゼットにバッグを置きに寝室へ入ると閑も一緒についてくる。
「閑さん?」
結婚してからまったく遠慮の必要がなくなったのか、閑はいつも遠慮なく琴音に触れる。今も唸りながら背後から琴音を抱きしめ、首筋に顔を埋めて匂いを嗅いだ。
……匂い。匂い……!
「ちょっ、やだ! 閑さん待って!」
「何?」
珍しく抵抗する琴音に、閑が不機嫌そうな声を上げる。だがしかし、いくらそんな声を出されてもダメだ。夕方からとはいえ、暑かった。店はエアコンが聞いてて快適だったが、道中はかなり暑かったのだ。