身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
「ううん、そういうわけじゃなくて」
本当に、そういうわけじゃない。ただ、なんとなく気乗りがしない。連日続く猛暑日のせいだろうか。
どうしても欲しいものがあるわけでもないし、それならわざわざ出かけることもないのでは、と思ってしまった。
「ごめんなさい、行きたいって言ったのは私なのに」
「いや、それは構わない」
新しく出来たショッピングモールで、レストランフロアやフードコートが充実していて話題になったところだった。といってもオープンしてからもう一年は経つのだが、琴音は行ったことがなかったから楽しみにしていた。そのはずなのに。
ソファの背もたれに身体を預けて、黙り込んでしまう。自分でもよくわからない、ただ何か、身体を動かすのが億劫だった。
隣に閑が腰を下ろし、琴音の額に片手を当てる。
「熱はないな」
「うん、大丈夫。本当に具合が悪いわけじゃないの」
楽しみにしていたのに、動く気になれないのがとても残念だ。
閑が額から手を離し、慰めるように琴音の頭を撫でる。
「疲れが出たのかもしれないな。生活が変わったばかりだし」
「そうなのかな……夏バテもあるのかも。今日はさっぱりした食事にしようかな」
「そうだな、今日は俺が作る」
そう言うと、閑はスマートフォンを使ってレシピを調べはじめた。見れば、夏バテ対策の料理で検索をかけてくれたらしい。
「大丈夫、私が作るよ。でもレシピは見たい……な」
琴音は、閑の肩に頭を凭れさせて閑の手元を覗き込む。そんな仕草があまりにも自然に出たことに自分で驚いて、咄嗟に頭を上げようとした。
けれど、それを閑の片手が優しく抑えて肩の上に落ち着かせる。そのことにひどく安心出来て、ほうっとそのまま力を抜いた。