身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
「琴音?」
閑が驚いた顔で立っている。当然だろう、まだリビングにいるだろうと思った琴音がこんなところで突っ立っていたのでは。
「……お姉ちゃんからの電話? 名前が聞こえた」
「あ、ああ」
どこか気まずげに見えるのは、元恋人と隠れて話した後ろめたさだろうか。
そう思うと、琴音は自分の心がどんどん塞いでいくのがわかった。今は何もないのはわかっている。けれど、ふたりが連絡を取り合っていた、それだけのことが、琴音の中にずっしりと重い石を置いた。
「琴音、可乃子と話したくないのか」
不意にそんなことを尋ねられ、ぐっと込み上げたものを飲み込む。話したくないに決まっている。可乃子にまたあんな態度を取られたら、琴音は間違いなく、自分が何か叫び出してしまうと思った。
結婚すると決めたときに心の奥底に閉じ込めた、結婚するために必要のない感情を。
――お姉ちゃんに閑さんが触れたなんて、想像もしたくない。ふたりが並んでいるところですら見たくない、話してだって欲しくない。だから閑ちゃんに二度と触らないで。
――お姉ちゃんに、触れた手で。
おかしくなりそうで、慌てて思考をシャットアウトする。そこから先は、考えてはいけないことだった。意識してしまったら、閑と普通に結婚生活を続ける自信なんてなくなる。
「琴音? 理由を聞いてもいいか」
考え込んだ琴音に、閑が言葉を続ける。琴音は閑に対しても、感情の扉が閉じていくのを感じていた。