身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~

「え……」

 どうして、と振り向く前に、肩に手が乗った。視界の端から閑の姿が入り込む。それから、ソファに座る琴音の前に片膝を突き、目線の高さを合わせた。

「閑、さ」
「息のリズムがおかしくなってる。大きく吸って、ゆっくり吐いて」

 閑の目がまっすぐに琴音の目を見て、膝の上で固く握りしめていた琴音の手は閑の手に覆われる。
 もう片方の手が、琴音の頬に置かれて落ち着かせるように親指で摩った。

「吸って……吐いて。そうだ、ゆっくり」

 閑の合図に合わせて息をするうちに、いつのまにか消えていた指先の感覚が戻ってくる。痺れてまだ微かに震えていて、血が通っていないのかと思うくらいに冷えていた。強張って開かない手を閑が開かせて、包み込む。

「閑さん……なんで」
「このところずっと、琴音の様子がおかしかったから。今朝もだ。だから予定を切り上げて帰ってきた」

 一体、どこから話を聞いていたのだろう。直前まで自分が口にしいていた言葉が、頭の中に思い出される。
 すうっと血の気が引いた。
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