身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
「閑ちゃん」
「わかってる。あとで話そう。琴音の重荷になるかと思って、敢えてその話はしなかった。だけど、ちゃんと話そう、琴音の気持ちも俺の気持ちも」
ほろ、と涙が零れた。一度零れればもう止まらなくて、それはずっと閉じ込めていた感情と似ていると思った。嫌な感情も、言いたくて言えなかった感情も、全部ほろほろとひとつのきっかけから全部、零れてしまった。
閑の肩を濡らしながら泣いた。まだ、閑の答えを聞けたわけではないけれど、なぜだかとても安心出来てしまった。
強張っていた身体の力が抜けて、閑の身体にしがみつく。閑は琴音を抱きしめたまま、ほっと息を吐き、それから声のトーンをひとつ下げた。
「今は、他の事を話さないといけないからな。ふたりの会話で、俺にはさっぱり、何のことかわからない内容があったんだが」
閑の声は、とても怒っていた。声だけでもそれがわかるくらいに冷たい。
何が、と顔を上げれば閑は今は、斜め向かいのソファに座る可乃子に向けられていた。琴音もつられて、そちらへ目を向ける。
「可乃子、どういうことだ」
「……だからっ」
可乃子は、これまでに見たことが無いくらいに狼狽えて真っ赤な顔になり。
「……閑のいないところで謝ってしまいたかったんだってば! まさか琴音が、あんな十年も前の嘘を信じて気にしてるなんて思いもしなかったし!」
閑の冷たい視線に耐えきれないというように、両手で顔を覆って隠してしまった。